アビスゲート2200 深淵から来る者たち 第30話、接触戦(後編)

91式空間戦闘攻撃機は、主力機であった80式の後継機として開発された機体だ。
正式名ではないが愛称は“ブラックドッグ”
運動性能、積載量とも向上している。特に対艦攻撃能力は大幅に強化されている。
月面のヘリウムを巡っての紛争、通称“ヘリウム戦争”での経験からの反映だった。
使い捨てブースターを取り付ければ航続距離は更に伸びる。
長距離任務を主とした偵察では必需品といえた。

ウォーカー大尉の91式は、一個目のブースターの燃料が切れる頃、ようやく予定宙域に到達した。
「目標に接近。今のところ何の反応もない。ステルスモードに移行する」
機首下部に設置された電子光学システムのカメラが目標を捉える。

現在、アビスゲートの周辺に展開している友軍の艦隊はその姿を変容させていた。
シルエットは良く知る駆逐艦や巡洋艦であったが拡大映像はその表面の異様さを映し出していた。
船体の装甲は異様な物質に覆われ金属ではなく生物の爛れた皮膚の様に変容していた。
理屈はわからないがその液状に近い物体はセラミックや金属と同化しているのかもしれない。

「駆逐艦らしいのが9、10、11……おかしい」
後部座席のヒンクリー少尉がレーダーを見て異常に気が付く。
「どうした?」
「識別反応が出ていないから艦名は不明ですが……元々のアビスゲートを守備していた艦隊より艦数が多いんです」
「破片ではないのか? アビスゲートにも被害が出てるらしいぞ」
「いえ、映像のシルエットが航宙駆逐艦や巡洋艦と酷似しております。アビスゲートの破片ではありません」
ウォーカーは、一瞬、困惑したが同時にひとつの可能性も思い浮かべて口にした。
「先行していた艦隊が飲み込まれたのかも……な」
「そんな……デアフリンガー級航宙戦艦を中心とした艦隊ですよ。そう簡単には潰されないでしょう」
「まあ、普通はそうなんだけどな」
ウォーカーは、燃料の残量を示した画面に目をやる。帰還用の分には十分足りる量は残っていた。
「艦隊に動く気配は?」
「どの艦も停止しています。巡回もしていないようです。でも、それもおかしい話だな」
「このまま接近してみよう。もう少し何か分かる筈だ。目標の動きに警戒してろよ」
「了解」

91式はさらにアビスゲートに接近を続けた。
浸食された艦もアビスゲートもなにも動きはない。ウォーカーに相手がこちらの様子を窺っているように思えた。
ヒンクリーは、上官に言われた通り、監視装置に目を離さずにいた。
レーダーの反応に変化はない。だが何かの違和感を感じていた。
一体、何が違うんってんだ?
ヒンクリーはモニターに表示される数値に目を凝らす。
光学カメラからの映像の中に表示される数値に微妙な変化があるのに気づく。
画像を幾つかのパターンに切り替えて試してみると何かが接近してくる物体があるのが映し出された。

「大尉! レーダーに反応はありませんが、カメラで接近してくる物を捉えました。識別反応なし。正体不明です」
「機数は?」
「お待ちを……目視ですが3機いえ、6機を確認」
「やっぱり捉えられていたな」s
ウォーカーは機首の向きを変えた。
減速を出来る限り抑えて機体を大きく旋回させていく。
機体が180度向きを変えた時、コクピットから何かが正面から向かってくるのが見えた。
それは、91式と同じシルエットを持っていた。
「こいつは……?」
浸食された91式空間戦闘攻撃機だった。
嫌な予感は当たった。
先行の艦隊に艦載機があった以上、この可能性は予想できた。だが、正面から来るこの機体は、一体どこから飛んできたのか?

浸食戦闘機の編隊と交差した。
思わず後方に目をやり浸食戦闘機の行方を追う。
敵機は旋回を始めていた。
動きからすると性能に変化はないように思える。だがレーダーで探知できないのはいただけない。
「ヒンクリー、レーダーは使えない。後方の敵機から目を離すな!」
「離すなって……」
「目視だ! 目で追え!」
「りょ、了解!」
ヒンクリーは体を思いきり捩り、後方を警戒する。
「敵は三機! 編隊で追尾してきます!」
ウォーカーは、機体を大きく傾けた後、頃合いで一機に急旋回させた。追ってきた敵機はウォーカーの91式に翻弄されコースを乱す。
ウォーカーは容易に敵の後ろを取れた。
浸食しているためか機体は91式とほぼ同じ性能のようだ。だが、パイロットの動きは違う。まるで素人の操縦だ。
「頂きだ!」
トリガーが引かれ、20㎜粒子機関砲が発射された。
粒子弾は命中し浸食戦闘機を見事に貫通した。だが、誘爆は起こさない。
仕留め損ねた! 当たり所か……?
もう一度狙いをつけた時だった。
「後方に一機っ!」
編隊の中の一機がいつの間にかウォーカー機の背後を取っていた。
ウォーカーは、とどめを諦め、機体を急旋回させる。
敵が撃ってきたが精度は幸いにも低い。粒子弾が機体をかすめただけだった。
「正面!」
別の機体が正面から迫ってくるのが見えた。
旋回で機体の腹を見せるのは嫌だったウォーカーは、機関砲のトリガーを引き続けたまま敵機に突っ込んでいった。
敵も機関砲を撃ってくる。高エネルギー弾が機体の一部をかすめた。エネルギー弾の赤い光がコクピット内を照らしながら通り過ぎた。
ヒンクリーは思わず身を伏せる。
ウォーカーは、恐怖心をねじ伏せたまま敵に突っ込み続けた。
連続して撃たれるウォーカー機の20㎜粒子弾が浸食戦闘機のコクピットらしき部分をえぐり取った。その瞬間、機体が傾くと続けざま粒子弾が機体を貫通していく。そして大きく軌道を変えた後、浸食戦闘機は爆発した。
オレンジの炎が輝くのが見えた。
ようやくの一機撃墜。敵はまだ残ってこちらを狙っている。
20㎜粒子機関砲は元々一撃必殺の武器だ。一発で空間戦闘機を破壊できる威力がある筈だった。段数も200発と機銃弾に比べて少な目だ。だが、今相手にしている浸食戦闘機は機銃弾並みに粒子弾を撃ち込まないと撃破ができない。
ウォーカーは敵機の姿を追いながら思案した。
どうやってこの危機を乗り切れるのか。全機撃破か、それとも何かの方法を見つけて巻くか。

「後方より新手が複数!」
ヒンクリーが叫びにも似た声で言う。
おそらくアビスゲートの方向から接近してきた6機が追いついたのだ。
ウォーカーがドッグファイトで先に進めなかったのが仇になった。
1対8
それは最悪の数字だった。
格闘戦では囲まれる。無理だ。なんとか逃げ切らないと……。
ウォーカーは操縦桿を忙しなく操作しながら思った。
あらゆる方向に目をやり逃げ道を探す。
敵は次第に空間を狭めてウォーカー機を追い詰めていく。
浸食戦闘機の動きは緩慢だが、チームワークはいい。まるで獲物を狩る狼の群れのようだった。
中の一機がウォーカー機を射線軸に捉えた。
「しまった!」
ウォーカーが焦るが遅かった。今撃たれたら避けようがない。

その時、上方からミサイルが追ってくる浸食戦闘機の機体を吹き飛ばした。
爆発と共に血のような赤い液体が宇宙空間に飛び散っていく。
ウォーカーは何が起こったか理解できず、周囲を見渡す。
上方から91式が一機、戦闘機の群れの中をすり抜けていった。
通り過ぎた機体は大きく旋回しながら浸食戦闘機群に機体を向き直し再び突っ込んでくる。
「こちら、セイバーツー! ご無事ですか! ウォーカー大尉!」
通信を入れてきたのは、フェルミナ・ハーカーだった。
「ハーカー少尉? ミナか?」
フェルミナが救援に駆け付けた事に困惑した。
ウォーカーが飛び立った時、彼女は意識を失って医務室にいた筈だったからだ。それが今は、重武装の91式空間戦闘機を駆って敵を蹴散らし始めている。
「敵は、レーダーで捉えられません。有視界での格闘戦でしか対応を!」
「りょ、了解」
二機の91式空間戦闘機が編隊を組んだ。

……to be continued

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