ラブクラフトが創作したマサチューセッツ州の架空の村ダンウィッチおよびアーカムを舞台に、異界の邪神が人間の女性に産ませた落とし子の恐怖を描く。
1913年、マサチューセッツ州の山奥の寒村ダンウィッチのはずれに、変人の老父と住むアルビノの女性、ラヴィニア・ウェイトリーが私生児を生む。その父親について老ウェイトリーは村人に対し、ラヴィニアの子はいつかあの丘で父の名を呼ぶだろうとだけ言う。
【あらすじ】
ウィルバーと名づけられたヤギに似た奇怪な容貌のその男児は、肉体、知性とも驚くほど成長が早く、妙な発声の仕方をし、村人からその祖父、母以上に気味悪がられる。また老ウェイトリーは、ウィルバーが生まれて以来、家の仕切り壁を取り払ったり、窓をふさいだり改築を進め、やたら牛を買い入れるようになるが、それが何のためかは不明である。
やがて老ウェイトリーは死に、ラヴィニアも行方不明となる。そしてウィルバーも1928年、ある呪文を知るために禁断の魔書『ネクロノミコン』をミスカトニック大学図書館から盗み出そうとしたところを番犬に襲われて死すが、そのときあらわになった下半身はこの世のものと思えぬほどの奇形であった。
ウィルバーが死ぬとダンウィッチ村で、草木をなぎ倒す何か巨大な「物」が通った跡が見つかる。ウェイトリー家の建物はすでに吹っ飛んでおり、あちこちで牛が殺され、村人は恐怖のどん底におちいる。そのころ、ミスカトニック大学図書館司書で、かつて恐ろしい予感がしたためにウィルバーに『ネクロノミコン』の貸し出しを断ったヘンリー・アーミテッジ博士が、ウィルバーの日記の解読に成功していた。それによれば、老ウェイトリーは、人類を滅ぼすであろう異次元の魔神をこの世によみがえらせようとしていたのであり、さらにその魔神をよみがえらせる前哨としてウェイトリー家にもすでに怪物がいるとのことなのであった。その対策の研究をはじめていた博士は、ウィルバーが死んでエサをもらえなくなった怪物が暴れ出したことと分かって、同僚のライス教授とモーガン博士と共にダンウィッチへ急行する。
電話報告中に命を落とした村人によれば、木や建物がなぎ倒されていくのが見えるだけで肝心の怪物は見えないのであったが、博士が調合した粉末で一瞬だけ怪物の姿が現われる。そのグロテスクな姿を望遠鏡で見た村人のひとりはその場で失神する。村人が見守る中、3人の博士が丘の上から呪文をとなえると、怪物は断末魔に「父、ヨグ=ソトース」の名を叫び、消滅する。それはウィルバーの双子の兄弟で、こちらのほうがより父親に似ていたのだとアーミテッジ博士は説明する。