時代を越えて広がる物語の深淵、クトゥルフ神話の世界
クトゥルフ神話とは何か — “理解できない”から“恐怖”が生まれる世界
クトゥルフ神話とは、人間の理性では到底測れない“宇宙的恐怖(コズミックホラー)”が支配する世界です。そこには魔法や怪物が存在しますが、いずれも人間のためにあるわけではありません。人間は世界の中心ではなく、ただの“取るに足らない存在”にすぎないという前提が、物語の根底に流れています。
1. クトゥルフ神話の起源
クトゥルフ神話は、アメリカの作家 H・P・ラヴクラフト が考え出した世界観を起点に、のちに他の作家たちが設定を広げて現在の形になりました。
出発点となったのは、ラヴクラフトが書いた短編「クトゥルフの呼び声」です。この作品に登場するクトゥルフ神は、クトゥルフ神話の最高位の神ではありませんが、この後、様々な世界観に人がっていくことになります。

2. クトゥルフ神話の神々って?
クトゥルフ神話には、宇宙的な混沌を体現する外なる神、地球や宇宙のどこかで眠る旧支配者、そして比較的“秩序”寄りの旧神といった階層の神々が存在します。アザトース、ヨグ=ソトース、クトゥルフ、ハスター、ノーデンスなど、多様な神格が世界観を形作っています。この神々は全てをラヴクラフトが考え出したわけではありませんが、それらも取り込んで世界観は広がっています。
3. シェアード・ワールドが広げたクトゥルフ神話の世界
ラヴクラフトは、自分の設定を他の作家が使うことを歓迎していました。彼自身も他の作家の設定を作品に取り込むことがあり、ファンから届いた考察の手紙にも、まるで小説内の出来事が現実に存在するかのような含みを持たせて返信することがありました。
友人作家たちも互いの作品に登場する神々や書物を引用し合い、世界観はどんどん広がっていきます。何度も映画化されている冒険小説「英雄コナン」シリーズも、クトゥルフ神話世界に登場する架空の大陸を舞台にしています。
4. 現在でも広がり続けるクトゥルフ神話世界
現代でもクトゥルフ神話を題材にした作品は数多く存在し、むしろ増え続けています。小説、ゲーム、コミック、映画など、ジャンルを問わず“宇宙的恐怖”は今も創作の源泉となっています。
元ネタが実はクトゥルフ神話だったと後から気づく作品も多く、辿っていくと神話的要素に行き着くことも珍しくありません。
たとえば、映画「エイリアン」シリーズのいくつかはクトゥルフ神話を源流としており、「プロメテウス」はラヴクラフトの「狂気山脈」を参考にしたと言われています。長年「狂気山脈」の映画化を望んでいた映画監督ギレルモ・デル・トロは、「プロメテウス」と内容が重なりそうだという理由で一時的に企画を断念した経緯があります。
また、デル・トロが描く吸血鬼――『ブレイド2』のリーパーや、ドラマ『The Strain(ザ・ストレイン)』のストリゴイ――は、クトゥルフ神話の影響を強く受けていると言われています。
さらに、ウルトラマン誕生のきっかけとなった特撮ドラマ『ウルトラQ』のいくつかのエピソードは、クトゥルフ神話の神々を元ネタとしており、後年のシリーズでもオマージュ怪獣が登場します。
モダン・ホラーで有名な作家のスティーブン・キングやディーン・クーンツもクトゥルフ神話の世界観を好んでおり、オマージュ作品を書いています。ディーンクーンツが映画版の細作にも関わった「ファントム」は”太古からの敵”は、クトゥルフ神話の神々のオマージュになっており、登場人物の一人に”アーカム”というクトゥルフ神話に縁のある名前をつけています。
スティーブン・キングの「ドリームキャッチャー」や「シャイニング」も大きな影響を受けており、作品の中にたびたび登場する”黒衣の男”は。”ニャルラトホテプ”なのではないか?とファンの間では考察されています。
5. 日本でのクトゥルフ神話の影響
日本では明智小五郎や怪人二十面相という探偵と怪盗のアイコン的なキャラを生み出した江戸川乱歩が、クトゥルフ神話を初めて日本で紹介したと言われ、その後、多くの作家がクトゥルフ神話を題材とした小説が発表されました。80年代に執筆された栗本薫さんの「魔界水滸伝」が人気があり、同時に日本でのクトゥルフ神話の知名度を上げました。『帝都物語』で有名でSF大賞も受賞した作家の荒俣宏さんも、クトゥルフ神話の見識が深いことで有名です。
人気漫画家の藤田和日郎さんの作品は、本人からの言及はないもののクトゥルフ神話に影響を受けていると考察されてげおり、『からくりサーカス』は『錬金術師』、『双亡亭壊すべし』は、『ピックマンのモデル』の影響を受けていると思われます。また『双亡亭壊すべし』には、スティーブン・キングの『ローズ・レッド』や『ドリームキャッチャー』、ディーンクーンツの『ファントム』との大きな類似性がみられる為、なおのことクトゥルフ神話に影響を受けているように感じられます。
クトゥルフ神話 関連の記事
ランドルフ・カーターとは何者なのか ― ラヴクラフトが描いた“夢の探求者”の魅力に迫る ―
ランドルフ・カーターとは何者なのか ― ラヴクラフトが描いた“夢の探求者”の魅力に迫る ― クトゥルフ神話と聞くと、巨大な怪物や宇宙的恐怖を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、ラヴクラフト作品…
H・P・ラヴクラフト作 『ダゴン』クトゥルフ神話朗読
窓に! 窓に! H・P・ラヴクラフト作 『ダゴン』を朗読。 第一次世界大戦中に船員として乗船していた私は定期船がドイツ海軍に拿捕され、捕虜となった。数日後、ドイツ海軍艦船から逃亡し、太平洋を漂流してい…
『闇をさまようもの』手記に記された恐怖は、時を越えてあなたに忍び寄る。
『闇をさまようもの』は、H.P.ラヴクラフトが1935年に執筆したクトゥルフ神話の短編小説です。怪奇作家ロバート・ブレイクは、プロビデンスの廃教会で「輝くトラペゾヘドロン」という水晶を発見し、封じられ…
ランドルフ・カーターとは誰か?ラヴクラフトが夢に託した“もうひとりの自分”
ランドルフ・カーターとは誰か?ラヴクラフトが夢に託した“もうひとりの自分” H・P・ラヴクラフトといえば、クトゥルフ神話の怪物や宇宙的恐怖が有名ですが、 その一方で「夢の世界」を舞台にした幻想的な物語…
物語の深淵へ降りる階段、クトゥルフ神話の世界
物語の深淵へ降りる階段、クトゥルフ神話の世界 物語の隠し部屋。 タイトル:旧支配者の囁きが届く場所 — 宇宙的恐怖の構造解析 クトゥルフ神話とは何か — “理解不能”が物語の核となる世界 クトゥルフ神…
マウス・オブ・マッドネス
『マウス・オブ・マッドネス』は1994年公開のジョン・カーペンター監督ホラー映画。主演はサム・ニール。失踪したホラー作家を追う保険調査員が、作家の小説世界に引き込まれ、現実と虚構の境界が崩壊していく。…
【解説】旧支配者とは? ― ラヴクラフト神話に登場する“宇宙的存在”のカテゴリー
【解説】旧支配者とは? ― ラヴクラフト神話に登場する“宇宙的存在”のカテゴリー 「旧支配者(Great Old Ones)」とは、 アメリカの作家 H・P・ラヴクラフト を中心に発展した クトゥルフ…
這い寄る混沌ニャルラトホテプ
這い寄る混沌 ニャルラトホテプ その神格と特異性 ニャルラトホテプは、クトゥルフ神話に登場する「外なる神」の一柱で、「這い寄る混沌」とも呼ばれます。自我と意志を持ち、神々の使者として人間社会に干渉する…
【作品紹介】クトゥルー×日本神話×SFの怪物的クロスオーバー栗本薫『魔界水滸伝』という“80年代エンタメの怪作”を知っていますか?
クトゥルー×日本神話×SFの怪物的クロスオーバー 栗本薫『魔界水滸伝』という“80年代エンタメの怪作”を知っていますか? 1980年代の日本SF・伝奇小説の中で、いま読み返しても圧倒的な熱量を放つシリ…
【解説『未知なるカダスを夢に求めて』とは?ランドルフ・カーターが追い求めた“理想郷”の正体
『未知なるカダスを夢に求めて』とは?ランドルフ・カーターが追い求めた“理想郷”の正体 H・P・ラヴクラフトといえば、クトゥルフ神話の怪物や宇宙的恐怖が有名ですが、 その一方で“夢の世界”を舞台にした幻…
